【Raees】

【Raees】

監督:ラーフル・ドーラキヤー Rahul Dholakia

出演:シャールク・カーン、マーヒラー・カーン、ナワーズッディーン・シッディーキー、サニー・リーオーン(アイテム・ソング出演)、アトゥル・クルカルニ、ムハンマド・ズィーシャン・アユーブ

トレイラー

ストーリー

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禁酒法が施行され、酒の販売が禁止されているグジャラート州。しかし、需要あるところに供給ありで、酒の密造・密輸は盛んに行なわれていた。そうした環境で育った少年ライースシャールク・カーン)は親友のサディーク(モハンマド・ズィーシャン・アユーブ)とともに酒密輸マフィアのジャイラーズ(アトゥル・クルカルニ)の仕事を手伝いながら成長した。やがて大人になったライースはジャイラーズから独立し、自らの酒密輸組織を率いて勢力を拡大していく。

そんなとき酒の取締りに熱心な警察官ジャイディープ・マジュムダール警部(ナワーズッディーン・シッディーキー)がライースの本拠ファテープルの町に赴任し、ライースの活動に目を付けるようになる。マジュムダールの執拗な追及とそれをかわすライースの戦いが始まった。

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現在も酒の販売が禁止されているグジャラート州。1980〜2000年代のグジャラートを舞台にシャールク・カーンが酒の密輸組織のボス、ライースを演じる作品。シャールクは前作【Fan】(2015)でのストーカー役に続いての悪役です。監督は【Parzania】(2007)の評価が高いラーフル・ドーラキヤー。

イース(シャールク)の妻を演じるのはパキスタン出身でパキスタン映画【Bol】(2011)への出演で知られるマーヒラー・カーン。ライース逮捕に執念を燃やす警察官にナワーズッディーン・シッディーキー。

【Raees】のオープニング・タイトルでシャールク・カーンは「Shahrukh Khan in and as Raees」として紹介されます。この「in and as」は作品のタイトルと主人公の役名が同じであることを意味し、作品が徹底してその人物を描くことを宣言する独特の表現です(他国の映画にあるのかどうかは知りません)。シャールク作品では【Don】(2006)と【Fan】(2015)で「in and as」が使われていましたが、どちらも本名ではないので【Raees】とは微妙に異なります(【My Name Is Khan】(2010)も一応役名がタイトルの一部ですが)。【Raees】は単にシャールクが「悪役」を演じるだけでなく、ライースという人物を演じ切る作品です。

イースの行動の中心にあるのは「dhanda(ビジネス)」という言葉で、「酒の密造・密輸は法律では犯罪だが、自分たちにとっては大事なビジネスだ」という、基本的には母から受け継いだ思想です。ライースは少なくとも自分の周囲の人々にとってはビジネスをしているだけで、罪を犯しているという感覚はありません。

これに対するナワーズッディーン・シッディーキー演じるマジュムダール警部。なかなか行動原理がつかみにくい人物ですが、おそらく密造酒の取締りが自分の「dhnda」と考えており、その遂行のうえでライースとの対決が避けられないだけで、ライースが悪である故に許せない考えているわけではなさそうです。そのためライースとの関係が正義と悪との対決という印象を与えませんさらに、ライースを利用する、正真正銘の犯罪者であるボンベイのドンまで登場させています。結局、【Raees】は犯罪者を描いた作品ですが、ライースは「悪」なのかはあいまいになっています。

後半になると、ライースは密造酒ビジネスだけでなく、近所の住人のために新たな街づくりに乗り出します。ライースが自分のビジネス・コミュニティに対して持つ思いやりを象徴する行動としてライースの人物像を描くためのエピソードですが、やや話が膨らみすぎた印象で、話のスピード感も落ちます。もっとも、街づくりのエピソードはライースのナイーヴすぎる夢として彼の没落のきっかけになるという役割が与えられています。

シャールクの演技は血まみれシーンはあるものの、その他のシャールク・スタイルは基本的に封じています。最近の作品では自らのスタイルへの依存が多少過度になっていたところもあるので、いくらか軌道修正を図っているのかもしれません。ナワーズッディーンは悪くはないものの役が物足りません。マーヒラー・カーンは、「ギャングの妻」として、結果的には好キャストでした。

最近は【Fan】に至るまで、スターとしてのシャールクに依存する作品が多かったのとは異なり、【Raees】はストーリーやキャラクターに重きが置かれています。これまでのシャールクのファンがどのように受け止めるかはわかりませんが、俳優シャールクの実力がわかる作品です。

音楽

音楽はラーム・サンパト。

「Zaalima」

「Udi Udi」

「Laila Main Laila」

サニー・リーオーンがついにシャールク作品のアイテム・ソング。出世しました。フィーローズ・カーン主演【Qurbani】(1980)でズィーナト・アマーンが踊った「Laila O Laila」のカバー。この曲は【Shootout at Wadala】(2013)でもソフィー・チョウドゥリーのアイテム・ソング「Aala Re Aala」としてカバーされています(同作では別のアイテム・ソングでサニー・リーオーンが「Laila」というアイテム・ソングをやっているのでややこしい)。

オリジナル

【Qurbani】(1980)「Laila O Laila」

シャールク・カーン   ライース

トレイラーでの第一印象は「目つき悪い」。でも、悪人だからではなく(それも一部あるかも)、単に目が悪かったから?【Dear Zindagi】(2016)では助演的な役をやったりと方向転換を模索中なのかという感じがします。もしそうなら【Raees】では少しその効果が出てきた気もします。次は初めてとなるイムティヤーズ・アリー監督作品で、3度目となるアヌシュカー・シャルマーと共演。

ナワーズッディーン・シッディーキー  マジュムダール警部役

ナワーズッディーンはいつもながら隙のない演技ではあるものの、役柄が物足りません。サルマーン・カーンと共演した【Kick】(2014)のときと似た印象。大物との共演では使う側が遠慮するのかもしれません。

マーヒラー・カーン  アースィヤー役

【Raees】のようなしっかりした作品でシャールクの相手役としてふさわしい「大人の女性」として好キャストでした。パキスタン出身の女優で最初はテレビで活躍し、その後、日本でも映画祭などで上映されたパキスタン映画【Bol】(2011)で映画デビュー。【Raees】はヒンディー映画デビューです。印パの外交関係悪化に端を発したパキスタン俳優排斥運動で、作品のプロモーションに参加できなかったこと、これからしばらくはインド映画で見られそうもないのは残念。

このほか、ライースの幼馴染で片腕のサーディク役に【Raanjhanaa】(2013)のムハンマド・ズィーシャン・アユーブ。若きライースがその下で酒密輸ビジネスを始めるジャイラーズ役にアトゥル・クルカルニ。

ボンベイ・マフィアのドン、ムーサーバーイー役に【Raees】と同日公開の【Kaabil】にも出演しているナレンドラ・ジャー。

【Raees】の主な舞台であるグジャラート州は1960年に現在のマハ―ラーシュトラ州から分離して州として成立したときから厳格な禁酒を施行している筋金入りの禁酒州(dry state)。インドの禁酒運動は宗教的観念やイギリスに対する独立運動と結びついた複雑な歴史事情を持っており、インド憲法に直接の規定はないものの、憲法の行動指針(directive principle)には禁酒に向けて努力することが規定されています。最近のインドでは禁酒が拡大する傾向にあり、ビハール州では2016年から完全禁酒が施行され、ケーララ州では最高級ホテルを除く場所での酒類の提供が禁止されています。

「dhanda(ビジネス)」がストーリー上のキーワードならば、ライースのキャラクターに関連したキーワードは「バッテリー」。ライースは誰かに「バッテリー」と言われるとキレます。「バッテリー」はボンベイスラングでメガネをかけた人をおちょくる言葉、「メガネ野郎」くらいの意味です。なぜ「バッテリー」がメガネをかけた人を意味するのかはよくわかりませんでしたが、一説によるとバッテリーが機械を補助するのと同じくメガネで補助してる人だから。そんなライースも、妻のアースィヤーに「バッテリー」と言われたときだけは許してます。

【Raees】

禁酒州には住めないと思う人、メガネの人を見ても決して「バッテリー」と言わない人、次はいつになるかわからないマーヒラー・カーンを見ておきたい人、おすすめです。

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